フランドル 吉留 一秀さんに聞く『現場で培った仕事観』

インタビュー
2026.03.28
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1979年に創業した株式会社フランドル。
日本のレディースファッションを牽引してきた企業のひとつとして、時代の変化に向き合いながら多くのブランドを展開してきました。それぞれの価値を大切にしながら、時代に合わせて進化を続けています。

今回お話を伺ったのは、そんなフランドルで活躍する吉留 一秀さん。アパレル業界で長年キャリアを重ねてきた吉留さんに、これまでの歩みとともに、この仕事の魅力ややりがいについてお話を伺いました。

アパレルの仕事と向き合うすべての方へ。
吉留さんの言葉から、その魅力をお届けします。

「アパレル」に出会うまで

● 走ることが得意だった少年時代

私の出身は、山口県の下関です。子どもの頃は毎日のように友達と外で遊ぶ、元気な少年でした。走ることが得意で、周りから「足が速いね」と言われることも多かったですね。

走ることが得意になったきっかけのひとつは、小学校の頃にあった「自転車免許制度」です。今ではあまり聞かないと思うんですが、当時の下関では試験に合格しないと公道で自転車に乗れなかったんですよ。学校で交通安全の授業を受けて、筆記と実技のテストをクリアするとようやく自転車に乗れるという仕組みでした。

自転車を買ってもらい、準備は万端。合格する気満々で試験を受けたんですが、なんと私だけが不合格!友達はみんな自転車で走り回っているのに、私は自分の足で追いかけるしかなくって(笑)。置いていかれないように、とにかく必死で走ってついていきました。

そんな毎日を過ごしているうちに、いつの間にか自然と足は速くなっていったんです。気がつけば運動会ではリレーの選手に選ばれるようになり、中学・高校では陸上部に所属。最終的にはインターハイにも出場しましたよ!


● 今でも続く、私の財産

実家に帰るたび、必ず会う友人たちがいます。高校時代に一緒に陸上をやっていたメンバーで、「帰るよ」と連絡すると集まってくれて、みんなでお酒を酌み交わす。近況報告からくだらない話まで、気づけば毎年同じ思い出話もしている気がします(笑)。

帰省は1年か2年に一度くらいなので、頻繁に会えるわけではないんですが、それでもこうして変わらず集まれる関係が続いているのは、本当にありがたいなと感じています。

昔から、人と一緒にいるのが好きなんですよね。誰かと過ごす時間って、嬉しいことも楽しいことも、ひとりのときより大きくなる気がしていて。10代の頃に彼らと過ごした時間があったからこそ得られた感覚は、今でも自分の中に残っている大切な価値観のひとつだと思っています。


● ファッションに惹かれたキッカケ

子どもの頃からの夢だった技術者になるために、大学は理系に進み、電気工学を専攻。東京の大学に進学し、横浜で初めての一人暮らしをスタートしました。

当時は「将来は有名メーカーで技術者になる」と本気で考えていて、得意だった数学や理科の勉強にも力を入れていましたね。アルバイトも音響メーカーでスピーカー販売に携わるなど、ものづくりの世界に強い興味を持っていたんです。

そんな中、大学時代に出会ったデザイナーの友人の影響で、初めてファッションの世界に触れることになります。身につけるもので気持ちが変わり、周囲からの見え方までも変わる。その魅力に惹かれていきました。どんなに忙しくても生き生きと働く友人の姿を見て、「自分もこんなふうに仕事をしたい」と思ったことが、アパレル業界に興味を持つ大きなきっかけです。


● アメリカで得た"新しい世界"

大学3年生の終わりに、1年間だけアメリカへオレゴン州のポートランドの大学で語学留学に行きました。

留学を通して大きく変わったのは、「物怖じしない感覚」。外国の方と話すことには自然と慣れましたし、英語が完璧でなくても恥ずかしいとは思わなくなりました。何より、フットワークも軽くなった気がします。いろんな人と出会い、様々な経験を重ねることで、視野は大きく広がりましたね。

帰国して、大学4年生として過ごす頃には技術者を目指していた気持ちがすっかり別の方向に。ファッションの仕事に進もうと決意し、アパレル業界を目指して就職活動を始めました。

キャリアと転機

● はじめは販促の仕事から

大学卒業後は、メンズブランド SCENE(シーン)に就職しました。最初に配属されたのは販促のチームで、会社から「まずはグラフィックを学んでくれ!」と言われ、イラストレーターやフォトショップの勉強をはじめたんです。研修費用は全て会社が負担してくれてたので、仕事をしながら新しいスキルを身につけるという、とても有り難く、贅沢な環境でしたね。

その後も職務技能としてニットスクールにも通わせてもらうなど、私の土台はここでつくられました。ものづくりやブランドの背景を知り、その魅力をどう伝えるか、そうした視点を最初に学べたことは、今の仕事にも大きく活きています。


● 未経験で店長に。アウトレット1号店での挑戦

販促の仕事を1年ほど経験した頃、「大阪で営業のポジションが空いているよ」って話しをもらったんです。なんだか面白そうだと、迷わず転勤を決意しました。

しかし、大阪に行って2年ほど営業経験を積んだ頃。今度は突然社長から、「子会社で横浜のアウトレットに1号店をつくるから、店長は吉留な!」って連絡をもらったんです。当時SPAのブランドも子会社に持っていた会社でしたので、再び東京へ戻ることになった私は、販売経験も店長経験もゼロの状態で、8人のチームを任されることになりました。

まだ、日本ではアウトレットという業態が珍しかった時代です。横浜の店舗には全国からお客様が訪れて、連日大混雑!オープン月の予算は700万円だったのですが、なんと2日で達成しちゃいました(笑)。悩みや不安を感じる暇がないほど、本当に毎日が忙しかったですね。


●ダウンブランドとの出会いが導いた、初めての転職

初めて転職を経験したのは、29歳のとき。きっかけは、大阪の上司から紹介頂いたあるブランドの商品に強く惹かれたことでした。そのブランドが、当時、インポーターとしてそのダウンブランドを扱っていたインターブリッジという会社があったんですが、そのダウンブランドは当時から有名でしたので、即答でした。

タイミングにも恵まれて、転職はトントン拍子。ヨーロッパを中心したダウンブランドや、アウターから
シューズにいたるまで、当時はヨーロッパブランドがトレンドでもあり、卸営業を担当させて頂き、結果、同社が展開していたセレクトショップ「エリオポール(heliopole)」で働くことになり、そこで店舗担当、開発、レレディスブランドのバイイング等を経て約21年間のキャリアを重ねました。何度も出張で訪れたフランス、イタリア、インポートブランドの強い思い入れは、そこからできたものだと思います。


● そしてまた、新たな挑戦を求めて

大学卒業後に入社した会社ではアメリカの文化に触れ、その後の会社ではヨーロッパの文化を深く知りました。自由を大切にするアメリカと、伝統を重んじるヨーロッパ。それぞれの価値観に触れたことで、自分の中にある考え方や感覚が、自然と広がっていったように思います。

新しい環境に身を置くたびに、求められる基準や大切にすべき価値が異なり、その都度、自分自身の視野や判断軸がアップデートされていく感覚がありました。

2社で培ったベースをもとに次のステップへと進んできましたが、いつだって転職を考えるときは、小売をしっかりやっている会社であることが絶対条件。この軸は、ずっと変わらない私の基準です。

現場で求められる力

● 成果を生み出す人とは

アパレルの現場では、与えられた予算に対して売上をつくることが求められます。ですが、ECの拡大や競合の増加もあり、今は現場で売上をつくることが昔よりもずっと難しくなってきましたよね。

でも、そうした状況の中でも、成果を出している人ってちゃんといるんですよ。言われたことをそのままやるだけではなく、自分で考えて動く。そんな人たちには、既成概念にとらわれず、発想を転換しながら工夫し続けるという共通点があります。

どの時代でも必要とされるのは、自ら動ける人。環境の変化を言い訳にするのではなく、その中で何ができるのかを考える。その姿勢こそが、現場で長く活躍するために欠かせない力になるのだと思います。また少し客観的にみたり、友人に相談したりと、俯瞰してみることも大事だと思います。


● 販売員に必要なのは「コミュニケーション力」

販売員にとって必要なスキルは、やはり話す力ではないでしょうか。物怖じせずお客様と会話ができること、つまり「コミュニケーション力」ですね。

よく勘違いしてしまう人もいるんですが、これは生まれ持った才能だけで決まるものではありません。訓練すれば、ある程度のレベルまでは必ず身につくものです。俳優と同じで、上手な人のそばで学べばいいのではと思います。表情の作り方や声のトーン、話すタイミングなどを見て、試行錯誤しながら、「あの人だからできる」思わずに吸収していけば、身について行く気がしています。

ときには思い切ってやり切る勇気も必要です。そうやって経験を重ねていくことで、販売の力は確実に磨かれていきますから。


● 「洋服が好き」という気持ちが未来をつくる

この仕事って、やっぱり洋服が好きであることが大事だと思うんです。もちろん仕事なので大変なこともありますが、好きだからこそ「もっと知りたい」と思えるし、お客様にも自然と伝えたくなる。その気持ちが、結果的に自分自身の成長につながっていくんですよね。

だからこそ会社側も、現場が「やってみたい」と思ったことは、ある程度任せる度量が必要だと思います。

本部としては、現場に正しい情報をきちんと届けること、そして取り組みがどんな結果につながったのかをしっかり見せることが大切です。この“結果が見える環境”があることで、現場は自然と次にやるべきことを考えてくれるようになりますからね。


● 店長の役割

店長って、単に数字を見るだけの仕事ではありません。スタッフ一人ひとりを理解したり、周りの店舗とコミュニケーションを取ったりしながら、現場でしか拾えない情報を積み重ねていくことが大事だと思っています。

例えば、どんなお客様が来てくださって、どんな会話をしたのか。そういう数字には出てこない部分を日々振り返ることで、「なぜ今日は売れたのか」「なぜ伸びなかったのか」が見えてくることも多いんです。

うまくいっているチームって、自然と情報が共有されているんですよね。売れなかった日でも誰か一人のせいにするのではなく、「じゃあ次どうしようか」とチームで考えられる。そういう関係性があると、自然と感謝も生まれて、いい循環ができていくんだと思います。あとはうまくいった時は一緒に喜んだりと。

この仕事は人と人の仕事です。だからこそ日々のコミュニケーションを大切にしながら、お互いを理解し、その上でチームとして成果につなげていく。それが店長の大切な役割だと思っています。

仕事を楽しみ、人生も楽しむ

● 自然体で向き合う、仕事との距離感

仕事とプライベートで、いわゆる“オン・オフ”をきっちり分けているタイプではありません。昔から、どちらも自然体で過ごしてきましたね。

というのも、僕にとって仕事そのものが本当に楽しいものなので、オン・オフの感覚がないのかもしれません。もちろん常に順調というわけではなく、壁にぶつかることもありますが、そんなときはより意識してプライベートの時間を大切にするようにしています。

うまくいかない時は、いま考えていることや感じていることを友人に話してみる事が多いですかね。特に同じ業界で働く仲間と過ごす時間は、いろいろな意見を聞くことができて、とても勉強になるし刺激を受けています。


● 仲間と過ごす、リフレッシュ時間

リフレッシュに欠かせないのが、お酒と仲間の存在です。安くて美味しいお店を探すのも好きで、気取らない雰囲気のお店にふらっと立ち寄る時間が心地いいんです。よく、HUBに行くんですけど…通いすぎて、とうとうゴールド会員になりました(笑)。

休日は自然に触れることも多いですね。低山を中心に日帰り登山を楽しんだり、年に2回は山中湖にあるレンタルハウスでバーベキューをするのが恒例行事。料理に合わせてワインを選ぶのが得意な友人がいて、「この料理にはこれだね」なんてぴったりの一本を用意してくれるんです。仲間内でビストロのように料理とお酒を囲む時間は格別ですよ!

そうやって、プライベートの時間を大切にしていると、不思議とまた仕事のエンジンがかかるんですよね。

この業界で働く方、そしてこれからチャレンジされる方達へ

日本のファッションって、これまで海外のスタイルや価値観を柔軟に取り入れながら発展してきたものだと思っています。そうやって積み重ねてきた流れの中で、今では世界に向けて発信できる魅力のひとつになっているとも感じています。

ファッションは、その人の個性を表現できるものです。だからこそ、もっと自由に、もっと気楽に楽しんでほしいんですよね。良いものを身につけていると、不思議とその人の雰囲気や品のようなものも自然と上がっていく。「衣食住」という言葉がありますが、食や住まいはすれ違っただけでは見えません。でも、身につけているものは、その人らしさや日々の在り方を映し出すものだと思うんです。好きなファッションを楽しんでいる人は、どこか生き生きとして見えますし、そういう積み重ねが人生の豊かさにもつながっていくのではないでしょうか。

アパレル業界というと、ノルマや立ち仕事など大変そうなイメージを持たれることもありますが、それだけでこの世界に触れないのはもったいない。ファッションを通して人と人がつながり、誰かの毎日を少し豊かにできる。そんな魅力のある仕事です。この楽しさが、もっと多くの人に伝わっていけば嬉しいですね。

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PROFILE
吉留一秀
1970年山口県出身。
大学卒業後、株式会社シーンに入社、販促からはじまり、営業部を経験後、グループ会社のクラブモナコジャパンにて、アウトレット店舗店長を経験後、インターブリッジ株式会社に入社、ヨーロッパを中心としたインポート卸営業、直営店舗でもあるエリオポールにて、レディスインポートのバイイング、店舗運営、開発等、事業責任者と約21年勤務。その後、株式会社ANAPにて店舗部門統括、現在は株式会社フランドルにて、アウトレット店舗運営をを担う。
趣味は登山とアウトドアでの料理。家族や友人との時間を大切にし、スポーツやアウトドアを通じたライフスタイルにも関心が高い。